矯正的挺出(エクストルージョン)
矯正的挺出(きょうせいてき ていしゅつ)、英語で「エクストルージョン(extrusion)」とは、歯肉や骨の中に埋まった歯の根を、矯正力を利用して少しずつ引っ張り出し、歯冠部を露出させる治療法です。通常の虫歯治療や補綴治療では歯肉縁下の深い位置に歯質があると適切な修復が困難ですが、挺出を行うことで健康な歯質を露出させ、歯の保存や精密な修復が可能となります。
矯正的挺出が必要となるケース
大きな虫歯や破折
虫歯や外傷により歯冠が大きく失われ、歯肉縁下にしか残存歯質がない場合、通常の被せ物を行うことができません。このようなケースでは挺出により健康な歯質を歯肉上に出すことで、補綴治療が可能になります。
クラウン・レングスニングの代替
外科的に歯肉や骨を削って歯質を露出させる「クラウン・レングスニング」と比べ、挺出は歯周組織を温存しながら歯質を出せるため、審美的にも有利な場合があります。
歯根破折の保存治療
歯根の一部が歯肉縁下で破折している場合、挺出を行うことで破折線を口腔内に出し、再修復を試みることが可能となります。
矯正的挺出の方法
固定式装置を用いた挺出
隣在歯や矯正用ブラケットを利用し、ワイヤーやゴムの力で対象の歯をゆっくりと引き出す方法です。力をコントロールしやすく、精度の高い挺出が可能です。
マイクロインプラントを併用した挺出
矯正用アンカースクリュー(マイクロインプラント)を骨に埋入し、それを固定源として挺出する方法です。周囲の歯への負担を軽減でき、ピンポイントでの牽引が行えます。
治療の流れ
1. 精密診査・診断
X線やCT、歯周組織の検査を行い、挺出が可能かどうかを判断します。歯根長や周囲骨の状態を詳細に評価することが重要です。
2. 矯正装置の装着
挺出対象の歯と、固定源となる歯またはインプラントを設定し、牽引のための装置を装着します。
3. 徐々に挺出
およそ1か月に1mm程度のスピードでゆっくりと歯を引き出していきます。急激な力は歯根吸収や歯周損傷のリスクを高めるため、慎重な力のコントロールが必要です。
4. 保定期間
目標の位置まで挺出した後、周囲の骨や歯周組織が安定するまで数か月間は保定を行います。これにより挺出した歯の位置が戻るのを防ぎます。
5. 修復治療
挺出後に被せ物やブリッジ、インプラント補綴などの最終修復を行います。挺出により健全な歯質が露出しているため、長期的に安定した修復が期待できます。
矯正的挺出のメリット
- 抜歯せずに歯を残せる可能性が高まる
- 健康な歯質を確保して精密な補綴治療ができる
- 歯周組織を温存しやすく、審美的にも有利
- インプラントやブリッジへの移行を回避できる場合がある
注意点・リスク
治療期間がかかる
挺出には数か月の期間が必要です。すぐに修復を行いたい場合には不向きです。
歯根や歯周組織への影響
過度の力をかけると歯根吸収や歯周組織の損傷を起こすことがあります。定期的なチェックが必須です。
適応が限られる
歯根長が短い場合や、重度の歯周病がある場合には挺出が困難です。その際は外科的治療やインプラント治療が検討されます。
まとめ
矯正的挺出(エクストルージョン)は、通常であれば抜歯を余儀なくされる歯を保存できる可能性を高める治療法です。矯正治療と補綴治療の両方の知識と技術を組み合わせる必要があるため、経験豊富な矯正医の診断・治療が欠かせません。大切な歯をできる限り残したいとお考えの方は、ぜひご相談ください。